エッセイ「小山さんの思い出」
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あまご 転載可能写真集から(出典http://r.tabelog.com/mie/A2401/A240101/24000429/)
その昔、俺は1ヶ月に1回程度、タクシーを1日借り切って、大阪市内を走り回る仕事をしていたことがある。俺はそのタクシーを小山さんの個人タクシーと決めていた。
小山さんは、賭け事、特に競輪に目がなく、若うして生家を出奔し、全国の競輪場を渡り歩く渡世を送っていた。そんな生活がたたったんやろう、慕ってやまへんかったおふくろの死に目に会えず、そのことを悔いた小山さんは、その墓前にぬかずき正業に就くことを誓いはった。小山さんが45歳のときのことや。
その後、俺は職場が代わり、タクシーを使うこともなくなり小山さんとの付き合いは途絶えた。その数年後のこと。俺は、友達から小山さんが胃潰瘍で入院していると聞いた。その頃、俺は渓流釣りが好きやったんやが、小山さんからあるとき、もう使わへんからと立派な釣竿をもらったことがあったんで、その竿を持って滋賀県の安曇川上流に釣行し、釣ったあまごを川原で焼きがらしにして、病院に見舞いに行ったんや。そのときの小山さんの大げさな喜びようは今でも忘れられへん。
「太郎はん、ホンマにわざわざきてくれはったんでっか。そりゃあ、嬉しいなァ。さっきまで嫁さんと坊主がきてくれてたんやけど、ちょうど帰ったとこですねん。残念やなァ。嫁さんはともかく坊主には太郎はんを会わせたかったわ。へえっ!、これがわしが太郎はんにあげた竿で釣りはったあまごの焼きがらしでっか。これはホンマにうまいやろなァ。じゃァ、ちょっといただきまっさ。ああ! やっぱり旨い。鮎なんか比べ物にならん。こんなうまい焼き魚を食べるんは生まれてはじめてや」
小山さんが実は1人身やったことを知ったんは、俺が小山さんを見舞って1ヵ月後、胃潰瘍どころか胃がんで亡くなったその日のことやった。
小山さんは、なぜ子どもがいるなどと俺に嘘をついたのやろ。人並みに結婚して子どもを育てたいという思いが、おふくろへの思慕に重なって小山さんの心の中に密かに息づいていてその思いが言わせたんやろか。
俺は、今でもあまごの焼きがらしを作るたび、それを食べたときの小山さんの大袈裟でひょうきんな喜び様が思い出されて、胸が熱くなるんや。
「たまからのままさん2」さんブログ「描きたてのイラスト」から
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