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エッセイ「もう終電はない!」 - 最近のトピックスや弁当作り・断酒生活そのほかもろもろ日記

エッセイ「もう終電はない!」

 酒
                 フリーイラスト(⇒掲載ページ)          

             もう終電はない!(その①)

酒は良薬にもなれば毒薬にもなる。それをどちらに作用させるかは本人次第や。

俺が好んで飲むのはビールと焼酎やが、この頃、これらのアルコールが毒薬に作用するようになってきてどうもよくない。

自戒しながら、酒にまつわる“味な?”思い出をひとつ書き留めておこう。

 10年近く前の4月1日、俺がある土木会社の大阪の北部支店から南部支店に転勤辞令を受けた日のことや。

 俺は、それまでどちらかというと、大阪の北部の支店を転々としてたから、大阪南部への転勤は初めてのことやった。

 転勤の挨拶を終え、俺は自由時間を得て、近鉄阿倍野橋駅を降り、天王寺駅につながる陸橋に立った。

 見るとJRの線路の向こう側に緑に包まれた天王寺公園が、その後方に通天閣がやや間遠に見える。

 その辺りが大阪の下町、新世界や。

 考えて見ると、40年近くも大阪に住んでて新世界を1度も訪れたことがないというのはいかにも情けない。

 折角こうして大阪の南部に勤務地を得んや。新世界にいってみようと俺は思い立った。

 思い立ったが吉日。俺はさっそく新世界に行くことにした。

 近鉄からJRに向かう陸橋は、丁度十字路の道路をロの字型に囲み、橋上の両サイドには通行客の通路をわずかに残して、アフリカか中近東あたりの首かざり売りだとか、似顔絵描きだとか、俳優のプロマイド売りだとかの若者達でひしめいていた。

 そのわきでこれまた若者たちが、自作自演の詩を朗読したり、歌をうたったり、各々が思い思いのパフォーマンスに興じ、これを女学生らが取り囲んでる。

 自由で開放的な空間がそこにはあった。
 
 俺は、その陸橋を渡り、JRの線路沿いに公園を横目に見ながら新今宮方面に歩いた。

 天王寺から新今宮までの道筋はいわゆる路上生活者の縄張りや。
 
 簡易なものは段ボール箱の継ぎ接ぎから、強固なものは張られたロープに苔がむしはじめたものまで雑多な住まいがそこにあった。

 そこは、行政とのいたちごっこの中で生き抜いた猛者達の住まいなんや。
 
 その路上生活者のテリトリーが尽きたあたりから、俺は新世界に入った。

 パチンコ屋のざわめき、居酒屋の明かり、電気店、化粧品店など雑多の店の明かりが混淆して、まさにそこは新世界のど真ん中やった。
 
 俺は、商店街に入って通天閣を目指した。

 先程見上げて確かめた通天閣は視界の右方にあったのに、今は左方にある。

 少し行きすぎたんや。とって返し、突き当たりの辻を左に折れるとそれは正面になった。

 通天閣が商店街をこうして跨いでいることを、恥ずかしながら、この日俺は初めて知った。

 屹立するそれを下から仰ぎ、俺は満足して通天閣を尻目に、やけにパチンコ屋の多いその通りをそぞろ歩いた。
 
 ネオンの灯り始めたあちこちの通りをホロホロ歩けば、ここにもあそこにも立ち呑み屋がある。

 今坂田三吉が将棋を楽しみ、碁会所では、その古びた窓枠が傾きはしないかというほどに、通行人が窓枠にもたれかかって熱心に室内の勝負に見入ってる。

 何か懐かしくほっとする光景やった。

 新世界のちょうど目抜き通り、じゃんじゃん横町を歩いてると、その中ほどに間口の広い2軒並びの串カツ屋が目についた。

 まだ午後5時30分過ぎやというのに、ほぼ満席や。

 やや食指が動いたが、俺は立ち呑み党やから、とやりすごした。

 じゃんじゃん横町はすぐにとぎれて、その先は車の疾駆する大通りや。
 
 俺は引き返し思案した。

(こんな時間にこんなに混んでいるというんは、ひょっとするとよほどにこの店の串カツはうまいんやないか)

 引き返したその店の前で躊躇していると、うまい具合に2人連れが勘定を済ませて出ていった。

 串カツがどの程度うまいのか食べてみるのも一興やと思った俺は、今日は立ち呑み屋ではなくこの店で飲むことに決めたんや。
 
 店の中に入るとやけに女性客が多い。店内が華やいで見える。

 2人が出た後の席のひとつに座ると、両隣りが20代半ばかとみえる女性2組やないか。

 何とはなしにバツの悪い思いをしながらも、しかし心のどこかは浮足立って、俺は座席に座った。

「この串はおいしいわねえ」

「まあ、このタマネギの柔らかいこと!」と、どこにでもある串カツにやけに右隣りの女性二人が感嘆している。
串カツ 
           フリーイラスト(⇒掲載ページ

 俺はビールにどて焼きと串カツ数本を注文したが、どては煮が浅く、どうということのない味やし、串カツもどこにでもある代物のように思えて、少しこの店に入ったことを後悔した。 
 
 見渡すと、あちらに鳶職の兄ちゃん、その横に3人ずれの若いサラリーマン、こちらに男女の若いカップル、そちらに年配の女性3人連れと、雑多な客が入り混じり、店の中はちょっと不思議な配色の世界や。

「2度づけはお断り」と店内に数カ所大きな掲示がある。

 食べかけたその串をさらにソースにつけないようにとの注意や。
 
 串カツを当てにビールを飲んで2本目を注文した後、手元に残っていたタマネギの串をソースにつけようとすると、そのタマネギが串から緩んでソースの中に落ちかけた。

 これはやばい。思わず、手でソースの中に滑りこもうとするタマネギをつかもうとしたとき、これを目敏く見つけた店の兄貴格とおぼしき兄ちゃんが、大声で「おっちゃん、おっちゃん。ソースに手、入れたらあかんで」と俺をにらみ、叱り、走り寄ってきた。

(ソースには手をつけてへんで)そう声にならぬ声を出し、オタオタする俺を尻目に、兄ちゃんはそのソースを手前のバケツに手早く捨て、新しいソースと入れかえた。

 となりの女性が何か汚いものを見るような目で体を遠ざけるようにして俺を見ている。なんとも恥ずかしい光景や。

 俺はたまらずいそいそと席を立ち勘定したんやったが、その背をその仕切り若衆の視線がじっと追いかけてきた。
 
 後に知人にこの話をすると、「ああ、あそこは新世界でも有名な串カツ『やまと屋』という店や。ようテレビでもやってるよ」とのこと。

 伝統とは苔むすようにつくられるもの。

 この串カツ屋はこの新世界でこれまで営々と営みを続けてきて評判を得、新世界にいったらあそこがお薦めなどとマスコミや女性雑誌で紹介され、こうして多くの人が殺到するようになったんやろう。
 
 けど、そのような店の中には、過剰な客と情報に踊らされて、その本来の味や伝統を見失うところも少なくないようや。

 この店は果たしてどうやろか。

 これからも客層の変化にかかわりなく、頑なにその味と伝統を守り続けていくんやろか。

 それとも新しい客に見合った新しい味を作り、今はその流れに与するようにみえて、その流行のようなものが過ぎ去ったあとに、どっこい新世界でこうして生きているという底力をみせてくれるんやろか。
 
 俺は、その日、この店で嫌な思いをし、その味に何の魅力も感じなかったし、無実の罪を着せられ無性に腹立たしく、2度とこんな店に来てやるものかと吐き捨てる思いやったが、一方、またの日にはこの店の雰囲気やその味に、新世界に底強く生きている魅力や伝統のようなものを感じてみたいものだとも考えたことやった。

            (もう終電はない!その②に続く)
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