エッセイ「もう、終電はない!」(その③) - 最近のトピックスや弁当作り・断酒生活そのほかもろもろ日記

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エッセイ「もう、終電はない!」(その③)

       エッセイ「もう終電はない!」(その③) 

 電車の中で2日酔いにむかむかしながら目を閉じても眠れず、俺は、いつも鞄の中に持ち歩いているノートを開いた。
 
 確か朝鮮料理屋で何かを書きつけた記憶があったんや。

 ノートを開いて驚いた。そこには明らかに俺の字ではない、誰かの不揃いやが丁寧な文字が書かれているではないか!
 
 こうある。

「はじめて新世界にきて体験した串カツ屋や映画館の話、それにあなたのふるさとの話、おもしろくお聞きしました。

 私は新世界に住んで10年近くになります。

 新世界はいつもはどこにでもある歓楽街ですが、ときにこちらが驚くような表情をすることがあり、私の中では駄々っ子のような困った存在です。

 私はこれからもここ新世界に住んでいようと思っていますが、貴兄にもこれに懲りず通勤帰りに是非、立ち呑み屋などをあれこれ訪ねてください。

 でもあまり深酔いはされないことを祈ります。

 そして泣き上戸の貴兄のふるさとへの思いを大事になさってください。
                                        敬二拝 」
 
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    フリーイラスト(⇒掲載ページ

 ああ! 俺は2日酔いの頭を抱えた。

 俺はきっと朝鮮料理屋か他のどこかの店で、得意満面に昨日の出来事やふるさとのあれこれを、見知らぬ某敬二氏に話しかけ、人目も憚らず泣いたに違いない。
 
 この日、俺は、2日酔いと寝不足に頭をグラグラさせながら、池田にある事務所で後任への引継ぎを済ませた。

 懸案はいろいろあるが、その細部を説明する力はこの日の俺にはない。

 午後3時過ぎに一応の引き継ぎを済ませ宝塚に向かった。

 この日、池田の事務所で俺が所属していたグループの歓送迎会が宝塚でも有名なホテル「若水」で予定されていたんや。
 
 定刻より1時間近く前にホテルに着き、俺は浴衣に着換え大浴場に入った。

 そして、満々と満たされた湯船にゆったりと浸かり、昨日と今日の疲れを癒した。

 湯の中に、俺の浅ましい行いが流れ出ていくようや. 

 湯気の中からみはるかすと、武庫川をはさんで左右にホテルやら民家やらが立ち並んでる。

 阪急とJRの向こうに見える山並は、中腹あたりが大きく開かれ、高層マンション群が林立している。

 その後背の山並は淡いピンクの山桜をアクセントに、薄い肌色から濃緑色までの色合いが、十重二十重に連なり盛り上がって、わずかに霞にもやう中、空の中に競り上がっているようや。
 
 こうして高みからみる武庫川がこんな大河やったとはなあ、と眼下に目を転じて、俺はそのゆったりした流れを見ながら、その昔好きだったCMのことを思い出した。
 
 それは旅館かホテルの1室で、ゆかたを着て縁側に座った女性が、眼下少し遠くに見える、長良川かどこかの川の対岸の水辺に、膝を浸しながら鮎竿をかざす彼の人の遠景を暖かく見つめている。

 その彼の人がこちらを見て手を振ったのを認めて、それに応え、そして何かを飲む。そんな映像である。
 
 関西にも、あのCMの似合いそうなホテルがこんな近くにあったんやなあと俺はひとしきり感心しながら、その景色を見るとはなしに見ているうちに、あたりに夕闇が迫りはじめてきた。
 
 風呂から出て、お茶を飲んで寛いでいるうちに宴会の時間や。

 案内があり俺は宴席に向かった。

 会場は4面のうち2面が窓に面している、明るくいい部屋で、あがりがまちのあでやかな几帳に胸が高鳴る。
 
 窓から乗り出して見るその下方に、宝来橋が武庫川を斜めに横切るように架かっている。

 宵闇の中、その宝来橋の欄干に灯が連なって灯り、その灯が水面に揺れている。

 風の流れに水面が呼応すると、それに寄り添うように灯の影も揺れる。

 美しい光景や。

 あたりに夜の静寂が音もなく押し寄せ始め、その中にひときわ、宝塚の街並みが明るく輝き始めたようや。
 
 去る者、来る者の簡単なあいさつ、乾杯で宴は始まり、料理が運ばれ杯が進んだ。

 9人ほどの小じんまりした宴会や。

 それぞれが口々に話したいことを話したい相手に語りかけ、賑やかな時間が流れた。

 杯を重ねるうち、何がきっかけでそんな話題になったのか、今年58歳になる佐賀県出身の先輩が、子どもの頃の思い出話を始め、皆してその話に聞き入った。

「子どもの頃は本当に楽しかったなあ。

 うなぎやなまずをね、頭打ちにし、背を開き、たれをつけながら焼いて食べるとこれがうまいんや。

 毛蟹もよくとったな。大体、毛蟹が住んでいる穴がどこかは知れていてな。そこに手を突っ込んで毛蟹を脅す。

 そうすると毛蟹が怒って指に噛みついてくる。それは痛いよ。

 でも、それをこらえながら30分から1時間ぐらいかけて毛蟹とやりとりしてね。

 そして最後につかまえて取り出すんや。
 
 ザリガニもよくとったな。ちょうど今頃や。

 雨が降った後のレンゲ畑にいくとね、それはレンゲが一面に映えてきれいやったが、ザリガニがあちこちに出てくるんや。

 それをね、その頃は鉄の火ばしなんかなかったから、竹をね、こう折り曲げてそして曲げ際を火であぶって竹ひばしにし、それでザリガニをひょいとつかんで籠に入れるんや。

 そいつを瓶の中にとんがらしと一緒に詰め、浸して親父が酒の当てにしてた。あの頃はあんなもん、どこがうまいんやろて思てたけど、ちょっとタイムマシンにでも乗って昔に帰り、食べてみたい気もするな。なんとも懐かしいね」    
 
 いい話やなあと皆が聞き入った。何か遠い昔の情景の中にこの身が浸るようや。
 
 けど、まだ半世紀前には日本中のいたるところにそのような光景があったんや。

 この宝塚やって、きっと半世紀前は山深い古里で、武庫川では、うなぎや鮎がいたるところに潜み、飛び跳ね、ザリガニやってとり放題やったに違いあらへん。

やま
フリーイラスト(⇒掲載ページ
 
 俺達はひょっとすると、大事な何かを失いかけていやしないかと、不安とも悲しみともつかへん感情が一瞬、俺の脳裏をよぎった。

 続けて先輩は話した。  

「山芋は難しいんや。秋口に蔓に印をつけておく。

 山芋の蔓とよく似た蔓があってな。これを間違えると残念なことになるんやけど、なあに慣れればその区別はすぐにつく。

 蔓についた葉は山芋の葉の方がちょっと細長いんや。

 正月前になるとな、秋につけておいた印のその地面を四方から、丁寧に掘り起こす。山芋を傷つけないよう、折らないようにね。

 1メートルくらい堀り進み、回りの土を払って取り上げてな、こう、藁ずとにくるんで縛り、背にかけてもって帰るんや」
 
 そうそう、そういえば正月前には、俺の親父もよく雪をかき分けて山芋を堀りにいったもんや。

 親父はその山芋を丹念に冷水で洗い、擦り鉢で熱心に擦ったもんやった。

 俺はというと、細切りにした宇和島のじゃこ天の入った出し汁を、親父のもつ擦りこぎの手元に注ぎ込みながら、その所作をあくなく見守るんやった。

 ほんで擦り上がった山芋汁をあたたかいごはんの上にたっぷりかけて食べるおいしさ。

 食後の口のまわりにできるかゆみをかまわず、かぶりついたもんやった。
 
 先輩がこれらの思い出を何かの物語のように語り、それが深々と皆の心を浸し、静かに時間が流れた後、誰かがその話を引き取って、株でひどく損をした話を提供した。
 
 人の不幸はときに人々の興味を誘うもので、皆してその話題に群がり耳を傾け、誰かがその話で何かをシャレたのをたわいもなく笑った。
 
 この「タイの粗炊き」はうまいなあ、どんな味付けをしているんやろと誰かが嘆賞した。

 俺は食べることには人一倍貪欲や。先付けから残さず食べ尽くしてる。

 若竹と蕗の薹のテンプラは、若竹のほんのりした甘味と蕗の薹のほろ苦さが口中に広がる、この季節ならではの逸品や。

 見た目にも美しい酢の物鉢の、小鮎と海老の酢漬け、ほうれん草のおひたしはそれぞれの風味が生き、それにどうやら大根漬けをかつらむきにして短冊に切り、それをさらに円筒に巻いているらしい1品はコリコリとした歯触りとともに、浅い味つけながら深みのある味で、神戸肉はあくまで柔らかくことさらに旨い。

 この楽しかった宴席も、少し早すぎるこの年のスイカの甘さを最後にお開きの時間となった。

 宴席の最後は先輩の穏やかなあいさつで締め、俺達は控えの間で着替えをすませ、フロントを出た。
 
 電車に乗ると、もういつもの風景や。

 学生、OL、通勤帰りのあの人この人で一杯や。

 ついさっきまで楽しんだ宴席が、遠い過去の思い出のように心のどこかに沈み、俺は現実の世界に立ち戻った。
 
 そして思ったんや。

(家では今日も嫁はんが、双子の子どもを幼稚園に連れていき、昼前に出迎え、子らの仕種に笑いころげ、その所作をいとおしみ、そしてそのいたずらを叱ったことやろう。

 夕暮れが迫って、子らに夕食を食べさせ、風呂にいれてむずがる子らを寝かせ、昨日と同じ1日の疲労の中で、今頃、大きなため息をついているに違いあらへん。

 昨日あんなに真っ赤に燃えていた赤鬼の角は、今日は少しは納まったやろか) 
 
 そんなことを考え、この1両日の出来事を漫然と思い浮かべながら、俺は昨日の疲れとこの日の酔いの中で、電車のガタゴトいう振動を子守歌がわりに、とろけるように眠りについた。

「お客さん、終点ですよ」と肩を揺すられ起きたところは再び宝塚。

電車②
フリーイラスト(⇒
掲載ページ


 なんと、乗換地十三駅を越え、終着地梅田でも気づかず、再び同じ電車でこの宝塚へと俺は舞い戻ってきたんや。
 
 もう、家に帰ろうにも終電はない!
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