エッセイ「あなたの夢はと聞かれたら」(その③)
エッセイ「あなたの夢はと聞かれたら」(その③)
その計画を立ててみる。
今は故郷に親父もおふくろも住んでへんから、従兄弟の家に、数日、宿を求めることから始めよう。
初日の午前中はつけ針作りをしよう。たこ糸を1メートル半ほどに切り分けて、その先にどんこ針を括りつけよう。
括り付け方はもうすっかり忘れてしもたが、きっとどんこ針とたこ糸を両手に持てば瞬時に蘇ることだろう。
50本は作ろう。俺の記憶では50本のつけ針が俺の作った最高の数だったはずや。
昼からは、小川のどこか浅瀬に「鮠びん」を仕掛けておいて、下流の方で鮠やむつごやかじかなんかの小魚獲りをしよう。
小魚を入れるバケツは、掬い入れた小魚が飛び跳ねないように、昔ながらに蓬の葉っぱを水面に敷きつめよう。
きっと午後3時頃にはバケツ1杯の小魚が獲れるに違いない。
午後4時になったら、大きめの鮠であれば3等分に切り分け、小さい鮠やかじかは、そのままどんこ針に刺してつけ針の準備をしよう。
日が落ち夕暮れの迫り出した午後5時あたりから、川の下手から上手に向けて、1本1本、いかにも夜中になればうなぎがうごめき出しそうな場所に、つけ針を丁寧につけて歩こう。
つけ針をつけ終わる頃にはすっかり夜の帳が下りて、森閑とした薄闇が俺を取り巻き始めることやろう。
そうなったら、あちらこちらにポツンポツンと灯る家々の明かりを頼りに、懐中電灯で足元を照らしながら、たぬきやキツネなんかの物の怪に化かされないよう、小道を小走りに走って、従兄弟の家に帰ろう。

イラストレーターkyojiroさんの作品
きっとその夜は夢うつつの中で、渓流の大きな淀みに仕掛けたつけ針に大うなぎがかかった夢をみることやろう。
翌朝は朝まだきに家を出て、夜明けの来るのを1本目のつけ針をつけた辺りで待とう。
きっと、1本、2本とつけ針を上げていっても、期待に反して20本目あたりまではうなぎはかかっていないやろ。
ああ、やっぱりダメかなあなどと諦めかけた25本目あたりで、何ということのない浅瀬に仕掛けておいたつけ針のたこ糸が大きく左右に揺れているのを見つけることやろう。
あ、うなぎや! 慎重にたこ糸を手繰って持ち上げれば、50センチほどのやや小さめのうなぎがかかっているに違いない。
そのうなぎを持ち上げると、子どもの頃のうなぎを釣り上げたときの感触が鮮やかに蘇ってきて、その喜びに俺の心臓は早鐘を打つことやろう。
それからの20数本は小魚にえさを盗られているばかりで、うなぎがえさを求めた痕跡を見つけることはできへんやろう。
結局、この1匹だけやったかと諦めかけたとき、小さな滝壷の深みに仕掛けたつけ針のたこ糸が岩間の間に千切れんばかりに張りつめて揺れているのを見つけることやろう。
これは大きいぞ!
うなぎが逃げないよう、たこ糸が切られないよう、慎重に慎重にうなぎとやり取りをし、浅瀬に持ち上げ、俺は驚くことやろう。
あ、ゴマうなぎや!
うなぎでも黒い魚体にゴマを散らしたような斑点を持つ大うなぎは、ことに美味で珍重されているんや。
きっとその大うなぎは、1メートルを優に超えていて、帰る道々、手に下げた魚篭を大きく揺らし、俺はその揺れに胸を振るわせることやろう。
家に帰ったら、ひと寝入りした後、2匹のうなぎを捌こう。
俺はこれまでうなぎは捌いたことはないから、故郷に帰る前に大阪で何度か活うなぎを買ってきて、関西風の腹開きの捌き方の練習をしておこう。
うな丼は2日目の楽しみにとっておいて、初日の釣果のうなぎは、炭火で白焼きにして、しょうが醤油でうなぎそのものの味を楽しむことにしよう。
さても、中国産の冷凍うなぎに飼いならされてきたこの舌に、天然うなぎはどう映えるっやろうか。
きっと俺の生涯に2度と味わえないやろううなぎの白焼きの味を、日がな1日、故郷の山河の緑に染まり、清流に洗われたその体の隅々に、しっかり刻み込んでおくことにしよう。
この夢は、齢を重ねる毎に強まっているが、30年近く前に親父とおふくろが故郷を離れてから、俺は一度も故郷に帰ったことがなく、故郷の山河がどのように変容しているか知らないし、俺を取り巻く現在の生活環境や俺の体調を考えると、この夢の実現はかなり難しいものに思われる。
遂には夢で終わるんやろか。けど、夢は強く願えば実現するもんなんや。
俺は、きっといつか、故郷の山河に降り注ぐ太陽と迫りくる山容から零れ落ちる緑の風をこの身一杯に浴びながら、童心に帰り、うなぎ釣りに興じその釣果を味わう、そんな数日を実現させたいと心から念じているんや。
この稿を書いた後のある日のこと。
先輩と一杯やりながら、うなぎは個性が強いから、他の食材との合わせが難しいですよねえ。うなぎを使ったメニューで思いつく言うたら、うな丼、うざく、うまき、茶碗蒸しぐらいやもん。などと俺が話したら、先輩がこう言った。
「オレの場合は、うなぎいうたら何を置いても『ひつまぶし』やな」
「え、暇潰し? また、変わった名前の料理でんなあ。なんですのん、それ?」と俺。
「暇潰しとちゃうで、ひつまぶし。ひつまむしとも言うけどな。アツアツのご飯の上に細かく切ったうなぎを載せて混ぜて食べるんや。これはうまいぜ。食欲のないときなんか最高やで」
「へえ、そんな食べ方、始めて聞きましたわ」
翌日、インターネットで検索してみると、フリー百科辞典「ウィキペディア」にひつまぶしが載っていた。
主に名古屋地方で食べられているうなぎ料理で、蒲焼にしたうなぎの身を細かく刻んでご飯に乗せたもの。
小ぶりなお櫃に入れて供されるため、こう呼ばれると書いてある。
食べ方はこうや。
小さなお櫃に茶碗3~4杯分のごはんと、ご飯の上に刻んだうなぎが載ったまま出されてくるので、これを杓子でかき混ぜ、最初はそのまま茶碗に1杯取って食べる。
2杯目は、葱、山葵、海苔などの薬味を載せて食べる。
3杯目はお茶かだし汁をかけ、さっぱりとお茶漬けのようにして食べる。
いかにもうまそうやないか!
さっそく俺は、その週末「たこ一」でうなぎを3匹買って家族で試してみた。
いつものようにご飯の炊き上がった炊飯器の中にうなぎをラップに包んで入れて蒸した後、家には一人ひとりのお櫃はないから、刻んだうなぎをタレもろとも炊飯器の中にいれてざっくり混ぜた。
1杯目をそのまま食べるといかにもホクホク旨い。

月音京子さんのブログ「イラトコ。イラストに美術館にトコトコ」からご了承を得て転載(⇒月音さんのブログ)
子らは山葵がまだ苦手やから、2杯目は小口切りにした葱と海苔を載せて食べた。
なかなかこれらの薬味はうなぎとうまくマッチする。
3杯目はうなぎのお茶漬けである。
これが1番旨かった。あっという間に家族4人で4合のごはんが売り切れ御免。家族皆んな大満足である。
(そうや、田舎に帰ってつけ針をしたときには、きっと白焼き、うな丼の次に、うな茶漬けを食うたろ)
ひつまぶしを食べながらそんなことを考えると、夏の盛りに小魚を獲ってつけ針をしたあの頃の情景が鮮やかに脳裏に蘇ってきて、俺は30数年前のまま心の中で凍結している故郷の山河に思いを馳せたんやった。
その計画を立ててみる。
今は故郷に親父もおふくろも住んでへんから、従兄弟の家に、数日、宿を求めることから始めよう。
初日の午前中はつけ針作りをしよう。たこ糸を1メートル半ほどに切り分けて、その先にどんこ針を括りつけよう。
括り付け方はもうすっかり忘れてしもたが、きっとどんこ針とたこ糸を両手に持てば瞬時に蘇ることだろう。
昼からは、小川のどこか浅瀬に「鮠びん」を仕掛けておいて、下流の方で鮠やむつごやかじかなんかの小魚獲りをしよう。
小魚を入れるバケツは、掬い入れた小魚が飛び跳ねないように、昔ながらに蓬の葉っぱを水面に敷きつめよう。
きっと午後3時頃にはバケツ1杯の小魚が獲れるに違いない。
午後4時になったら、大きめの鮠であれば3等分に切り分け、小さい鮠やかじかは、そのままどんこ針に刺してつけ針の準備をしよう。
日が落ち夕暮れの迫り出した午後5時あたりから、川の下手から上手に向けて、1本1本、いかにも夜中になればうなぎがうごめき出しそうな場所に、つけ針を丁寧につけて歩こう。
つけ針をつけ終わる頃にはすっかり夜の帳が下りて、森閑とした薄闇が俺を取り巻き始めることやろう。
そうなったら、あちらこちらにポツンポツンと灯る家々の明かりを頼りに、懐中電灯で足元を照らしながら、たぬきやキツネなんかの物の怪に化かされないよう、小道を小走りに走って、従兄弟の家に帰ろう。

イラストレーターkyojiroさんの作品
きっとその夜は夢うつつの中で、渓流の大きな淀みに仕掛けたつけ針に大うなぎがかかった夢をみることやろう。
翌朝は朝まだきに家を出て、夜明けの来るのを1本目のつけ針をつけた辺りで待とう。
きっと、1本、2本とつけ針を上げていっても、期待に反して20本目あたりまではうなぎはかかっていないやろ。
ああ、やっぱりダメかなあなどと諦めかけた25本目あたりで、何ということのない浅瀬に仕掛けておいたつけ針のたこ糸が大きく左右に揺れているのを見つけることやろう。
あ、うなぎや! 慎重にたこ糸を手繰って持ち上げれば、50センチほどのやや小さめのうなぎがかかっているに違いない。
そのうなぎを持ち上げると、子どもの頃のうなぎを釣り上げたときの感触が鮮やかに蘇ってきて、その喜びに俺の心臓は早鐘を打つことやろう。
それからの20数本は小魚にえさを盗られているばかりで、うなぎがえさを求めた痕跡を見つけることはできへんやろう。
結局、この1匹だけやったかと諦めかけたとき、小さな滝壷の深みに仕掛けたつけ針のたこ糸が岩間の間に千切れんばかりに張りつめて揺れているのを見つけることやろう。
これは大きいぞ!
うなぎが逃げないよう、たこ糸が切られないよう、慎重に慎重にうなぎとやり取りをし、浅瀬に持ち上げ、俺は驚くことやろう。
あ、ゴマうなぎや!
うなぎでも黒い魚体にゴマを散らしたような斑点を持つ大うなぎは、ことに美味で珍重されているんや。
きっとその大うなぎは、1メートルを優に超えていて、帰る道々、手に下げた魚篭を大きく揺らし、俺はその揺れに胸を振るわせることやろう。
家に帰ったら、ひと寝入りした後、2匹のうなぎを捌こう。
俺はこれまでうなぎは捌いたことはないから、故郷に帰る前に大阪で何度か活うなぎを買ってきて、関西風の腹開きの捌き方の練習をしておこう。
うな丼は2日目の楽しみにとっておいて、初日の釣果のうなぎは、炭火で白焼きにして、しょうが醤油でうなぎそのものの味を楽しむことにしよう。
さても、中国産の冷凍うなぎに飼いならされてきたこの舌に、天然うなぎはどう映えるっやろうか。
きっと俺の生涯に2度と味わえないやろううなぎの白焼きの味を、日がな1日、故郷の山河の緑に染まり、清流に洗われたその体の隅々に、しっかり刻み込んでおくことにしよう。
この夢は、齢を重ねる毎に強まっているが、30年近く前に親父とおふくろが故郷を離れてから、俺は一度も故郷に帰ったことがなく、故郷の山河がどのように変容しているか知らないし、俺を取り巻く現在の生活環境や俺の体調を考えると、この夢の実現はかなり難しいものに思われる。
遂には夢で終わるんやろか。けど、夢は強く願えば実現するもんなんや。
俺は、きっといつか、故郷の山河に降り注ぐ太陽と迫りくる山容から零れ落ちる緑の風をこの身一杯に浴びながら、童心に帰り、うなぎ釣りに興じその釣果を味わう、そんな数日を実現させたいと心から念じているんや。
この稿を書いた後のある日のこと。
先輩と一杯やりながら、うなぎは個性が強いから、他の食材との合わせが難しいですよねえ。うなぎを使ったメニューで思いつく言うたら、うな丼、うざく、うまき、茶碗蒸しぐらいやもん。などと俺が話したら、先輩がこう言った。
「オレの場合は、うなぎいうたら何を置いても『ひつまぶし』やな」
「え、暇潰し? また、変わった名前の料理でんなあ。なんですのん、それ?」と俺。
「暇潰しとちゃうで、ひつまぶし。ひつまむしとも言うけどな。アツアツのご飯の上に細かく切ったうなぎを載せて混ぜて食べるんや。これはうまいぜ。食欲のないときなんか最高やで」
「へえ、そんな食べ方、始めて聞きましたわ」
翌日、インターネットで検索してみると、フリー百科辞典「ウィキペディア」にひつまぶしが載っていた。
主に名古屋地方で食べられているうなぎ料理で、蒲焼にしたうなぎの身を細かく刻んでご飯に乗せたもの。
小ぶりなお櫃に入れて供されるため、こう呼ばれると書いてある。
食べ方はこうや。
小さなお櫃に茶碗3~4杯分のごはんと、ご飯の上に刻んだうなぎが載ったまま出されてくるので、これを杓子でかき混ぜ、最初はそのまま茶碗に1杯取って食べる。
2杯目は、葱、山葵、海苔などの薬味を載せて食べる。
3杯目はお茶かだし汁をかけ、さっぱりとお茶漬けのようにして食べる。
いかにもうまそうやないか!
さっそく俺は、その週末「たこ一」でうなぎを3匹買って家族で試してみた。
いつものようにご飯の炊き上がった炊飯器の中にうなぎをラップに包んで入れて蒸した後、家には一人ひとりのお櫃はないから、刻んだうなぎをタレもろとも炊飯器の中にいれてざっくり混ぜた。
1杯目をそのまま食べるといかにもホクホク旨い。

月音京子さんのブログ「イラトコ。イラストに美術館にトコトコ」からご了承を得て転載(⇒月音さんのブログ)
子らは山葵がまだ苦手やから、2杯目は小口切りにした葱と海苔を載せて食べた。
なかなかこれらの薬味はうなぎとうまくマッチする。
3杯目はうなぎのお茶漬けである。
これが1番旨かった。あっという間に家族4人で4合のごはんが売り切れ御免。家族皆んな大満足である。
(そうや、田舎に帰ってつけ針をしたときには、きっと白焼き、うな丼の次に、うな茶漬けを食うたろ)
ひつまぶしを食べながらそんなことを考えると、夏の盛りに小魚を獲ってつけ針をしたあの頃の情景が鮮やかに脳裏に蘇ってきて、俺は30数年前のまま心の中で凍結している故郷の山河に思いを馳せたんやった。
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