アルコール健康障害対策基本法について(その4)
■ アルコール健康障害対策基本法について(その1)
■ アルコール健康障害対策基本法について(その2)
■ アルコール健康障害対策基本法について(その3)
■ アルコール健康障害対策基本法について(その4) (この下に書かれている内容です)
■ アルコール健康被害対策基本法について(その4)
WHO(世界保健機構)は、2010年5月に「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」を決議し、わが国でもこの決議を受ける形で、アルコール関連問題基本法の制定に向けて動き出した(→掲載ページ)。
その基本法の骨子は、以下の内容を含むものとなっている(「アルコール関連問題基本法推進ネット」からの抜粋→掲載ページ)。
○ WHOの考え方に沿って、アルコールの有害な使用の低減を目指す。
○ 最新のエビデンス(根拠に基づいた保健医療)を基本にした対策を行う。
○ 一次予防(発生予防)として、「教育・啓発・研修の充実」と「国によるアルコールの社会規制システムづくり」を目指す。
○ 二次予防(進行予防)、三次予防(再発予防)として、省庁横断的な「総合的で連携した対策」を目指す。
○ 地域における「関係機関」の連携を重視する。
○ 「アルコールの有害な使用」によって、被害を受けた当事者とその家族の支援対策を重視する。
■ アルコール関連問題基本法のイメージ
◇ 目的
アルコール飲料の摂取に起因するアルコール関連問題が社会問題化していることから、その発生、進行、再発の予防をめざした諸施策に関する基本理念を定め、 国、地方公共団体、事業者、雇用主の責務を明らかにすることによってその対策を推進し、もってアルコール関連問題の総合的な予防を図り、 国民が健康で生きがいを持って暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的とする
◇ 基本理念
アルコール関連問題の発生、進行、再発の予防をめざした諸施策は、アルコール関連問題発生の背景にある様々な社会的要因を的確に把握して策定され、 国、地方公共団体をはじめとする関係者の協力と連携のもとに実施されなければならない
◇ 人権等への配慮
実施にあたっては当事者や家族の人権を尊重する
◇ 責務
【国】 諸施策を総合的に策定し、実施する
【地方公共団体】 国と協力しつつ、地域の状況に応じた施策を策定し、実施する
【アルコール飲料を製造する事業者】 これらの施策に協力する
【労働者を雇用する事業者】 労働者のアルコール問題の発生を防止する措置を行なう
【国民】 予防について理解し、不適切な飲酒をしないよう努め、他者に飲酒を強要しない
◇ 国と地方公共団体の基本的施策
【教育・広報】 関連問題の防止に関する国民の理解を深める施策
【医療】 一般医療機関での早期発見と、専門医療体制の整備
【社会復帰】 社会復帰への地域システム構築や自助グループ等の支援
【人材育成】 教育・保健・医療・相談などに関わる人へのアルコール対策の研修
【調査・研究】 基礎医学・疫学や、予防と治療技術・社会復帰に関する研究への支援
◇ アルコール飲料の広告・販売に関する社会的規制
【広告・宣伝】 アルコール飲料の消費を過度に促進する広告・宣伝の規制
【販売管理】 酒販店や料飲店に酒類販売管理者をおく制度
◇ アルコール関連問題総合対策会議の設置
【内閣府】 関連省庁、事業者、メディア、保健・医療・福祉関係機関、自助グループ、市民団体の委員からなる対策会議を設ける
【都道府県】 関連部署、事業者、メディア、保健・医療・福祉関係機関、自助グループ、市民団体など民間団体の委員からなる対策会議を設け、地域内の連携協力体制を構築する
■ アルコール健康障害対策基本法が制定されれば何が変わる?
アルコール健康障害対策基本法の字面を見ていると、この法律が制定されれば、アルコールに関連する諸問題が一気に解決に向けて動き出すかのような印象を受ける。しかし、事柄はそう単純ではない。
まず、同法はアルコール問題について、これからわが国が進むべき道筋を示した理念法(プログラム法)であって、国や地方自治体にアルコール関連問題総合対策会議の設置を義務付ける点などいくつかの条項を除けば、誰かに具体的な行動を義務づける内容にはなっていない。
例えば、事業者の責務では、「酒類の製造または販売(飲用に供することを含む)を行う事業者は、国・地方公共団体のアルコール健康被害対策に協力するよう努めること」と定めて、事業者の努力義務を規定しているに過ぎない。
まあ、これは理念法のもつ宿命ではある。
では、この法律ができれば何がどう変わるのか。この点について、放送大学の大曽教授が次のように述べられている。引用しよう(→掲載ページ)。
基本法は理念法であり、プログラム法とも呼ばれる。対策への道筋をつける法律である。
基本法によって、国の理念が明文化されることは、大まかに言って以下の5つの効果を生む。日本には40以上の基本法があり、すべてを精査したわけではないので、あくまでも福祉政策・社会保障法を専門にしてきた私の経験値であることを前提に読んでいただきたい。
1.戦略を打ち立てることができる
国・自治体・専門機関・大学などさまざまな場所で、「対策5ヵ年計画」のようなものが策定されるようになる。もう一歩進むと、白書がつくられる。
調査・研究・開発が行われ、国際会議に出たり、日本で会議を開催したりというような交流も促進される。
2.最低基準がつくられる
こうしてはいけないとか、こうすべきとかの基準が示される。そこまで踏み込めなくても、基準の呼び水となるような前提は示される。
これによって、当事者や家族の保護が図れるだけでなく、国・自治体がなすべき施策の最小限が明確になるし、家庭・学校・職場等におけるルール形成が徹底されていく。
3.予算が確保しやすくなる
対策のための調査やその評価、モデル事業などに予算がつきやすくなる。また、省庁横断的な予算組みが可能になる。
4.関係者の協議の場が設定しやすくなる
対策を協議したり、進捗を管理、評価するために、国や自治体レベルで、審議会、推進会議、協議会などを設置することが可能になる。
5.関連する法令等を見直す機会になる
基本法の理念に基づき、対策を進めるうえで、関連する法令・通達・実務を見直す必要が出てきて、改定が行われていく(立法・行政への効果)。
場合によっては、裁判所における判決・決定・命令の規範的な根拠として用いられることもある(司法への効果)。
そのようなプロセスを経て、基本法の次の改正が準備される。
また、三重県で、アルコールの健康被害について、連携医療を推進されてきた猪野亜朗先生は、ある講演の中で次のように述べられている(→掲載ページ)
1 「全国アルコール対策会議」が、関係省庁や日本医師会、関連学会、そして全断連等によって構成され、対策要綱が制定されます。「アルコール関連問題取り組み月間」などが決められ、国や地方自治体にはアルコール関連問題対策費として予算化されます。
2 地方自治体ごとに、「地域アルコール対策会議」が開催され、関係スタッフへの啓発とネットワーク作りが支援されます。
3 これらの結果、医療や福祉、公衆保健、産業現場の様々な場面で、多量飲酒やアルコール依存症の人が、早期に治療や回復への入口に立つことができるようになります。
4 断酒会などの自助グループも「アルコール対策会議」の重要な構成員として、ネットワークの一員となります。
5 全断連など、当事者やその家族への支援も強化されます。
6 アルコールのCMについても、公的機関が関与して規制します。
「なんだ、これだけのことか、あまりことないじゃないか」あるいは「本当にそれだけのことが実現できるのか。また、絵に描いた餅に終わるんじゃないか」と思われる人もいるかもしれない。
しかし、これまで、たばこの害については国を挙げて議論を重ね対策を講じてきたのに、アルコールの健康被害については、個別の病院任せ、断酒会などの自助組織まかせで、国として系統だてた対策をとってこなかったのであるから、この法律ができることは、アルコールの健康被害に悩む人たちにとって、遅きに失したとはいえ大きな前進であることは間違いない。
そして、仏作って魂入れずではないが、この法律を絵に描いた餅とするか、アルコール関連問題に悩む人たちや関係者の福音とするかは、酒害者を含んだ私たち国民一人ひとりのの認識と努力にかかっている。
この法律の制定に向けた、これからの各団体、事業者、なかんずく国会の動きを注視していかなければならないと思う。
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