ビールに焦がれる想いを詠む - 最近のトピックスや弁当作り・断酒生活そのほかもろもろ日記

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ビールに焦がれる想いを詠む

 もう、10年近く前のことである。

 部下の運転する車の助手席に乗っていて、交差点で交通事故にあった。部下の不注意だった。信号を無視して右折しようとしたのである。

 対向車は、正面からちょうど私の乗っている助手席めがけて突っ込んできた。私はこの事故で両足を骨折するというおおけがを負った。

 それから、両足の手術、リハビリと、ほぼ1年間に及ぶ入院生活が始まったのだが、その頃は仕事が終われば、毎日欠かさずビールに焼酎を酒を飲んでいたから、入院当初はビールが飲みたくて飲みたくてたまらなかった。

 禁断症状こそ出なかったものの、毎日、飲むことばかりを考えていた。

 私は、リハビリが始まり、両松葉杖が片松葉杖になったら、きっとこの病院の道を隔てた正面にあるコンビニで、ビールを買って飲んでやろうと、そう心に決めていた。

 入院後、3度の手術を経て、2ヵ月目にやっと車椅子に乗れるようになった。松葉杖をつけるようになったのは3ヵ月目。

 そして、両松葉が片松葉になった。いよいよ作戦を決行するときがきたのである。

 病室には食事時の湯茶のために、嫁さんが大きめのポットを用意してくれている。多分、このポットにはビールの350ミリリットル缶が2個分は入るに違いない。

 このポットにコンビニで買ったビールを入れて、夕食時にあたかもお茶を飲むようにして飲もうというのである。

 そのための作戦はこうだ。

 病院を出てコンビニにいくときは、服装はパジャマではまずいからトレーニングウェアに着替える。ビールをナイロン袋に入れてもらうのは、外から缶が透けて見えるからまずい。確かコンビニには紙袋もあったはずだから、その紙袋に入れてもらおう。

 病室に帰ったらポットを持ってトイレにいく。トイレは鍵をかければ全くの密室である。
 ビールをポットに移し替えたら、空き缶は直ぐさま病院正面を出た右手にあるゴミ箱に捨てにいかなければならない。証拠は速やかに消去するのだ。 

 食事時に、ポットからコップにビールを注ぐときも慎重を要する。泡がこぼれるというような失態は、絶対に演じてはならない。

 私は、ビールを飲んでもほとんど顔には出ないから、看護士が食器を回収にきても、荒い呼吸をしたり話しかけたりしなければ、大丈夫、ばれやしない。

 食事が終わって1時間はみんなと話すのは避けることにしよう。看護士がきても、小声でボソボソといかにもしんどい風を装えばいい。
 
 隣のベッドのTさんは、ほぼ寝たきりだから、私がビールを飲んでいることはばれやしない。

 さあ、夕食までに1時間となった。決行である。私はトレーニングウェアに着替え、病室を出た。
 
 いつもなら何も気にせず通りすぎる廊下やナースステーションも、今日は何か看護士や患者さんの視線が気になる。
 
 なんとはなしに私を見張っているような気がするのである。

 エレベーターに乗って1階で降り、玄関を出てあたりを見回す。見知った顔はいない。
 
 コンビニは、病院の前の道路を隔てたその向こうにある。道路を横断する信号まではかなり遠いから、ここは病院の前の道を横断する他ない。

 2車線の主要道である。車の往来は激しい。一方からの車が途切れたと思うと他方から車が疾駆してくる。
 
 車が途切れるのをしばらく待つ。ここでまた車にはねられでもしたら、それこそことである。
 私はチャンスを見計らって道路を横切った。

 コンビニに入り、店内をざっと見渡す。客の中に病院関係者らしき人の姿は見られない。こういうときは変にうろたえてキョロキョロしないようにしなければならない。

 片手にかごを持ち、高鳴る動悸を抑えて、私は奥のアルコールコーナーで、冷蔵庫の中から350ミリリットルの発砲酒2缶を取り出した。
 
 片松葉だからこれらの作業はやや窮屈だ。レジを見ると客はいない。
 
 私は急ぎレジに向かった。レジでは冷静に、いつもこうしてビールを買っているんだよという顔つきを見せなければならない。

 私は何もいわず、カゴをレジの上に置いた。若い店員が「いらっしゃいませ」と丁寧なお辞儀を返して計算し、私に料金を求めてきた。

 私は1000円札を出し、店員がナイロン袋にビールを入れようとするのを押し止め、「悪いけど紙袋に入れてや」と少々ぞんざいな口調でいった。気持ちが高ぶっているときの私の癖である。

 店員は私の言葉の意味を解しかねたようで、キョトンとしていった。

 「あのう、紙袋はあちらのコーナーにありますが…」

袋

 私は重ねていった。

 「いや、このビールを小さな紙袋に入れて欲しいんや」

 そうすると、すかさず隣にいた、かなり手慣れて老練そうなおばちゃんの店員が、若い店員に紙袋の場所を示し、自ら1枚取り出してビールを包んで、それを私に渡しニッと笑ってこういったものだ。

 「お酒は男の人の生理用品やもんね」

 私はなんと答えていいのか咄嗟に思いつかず「ヘヘヘ…」と照れを隠して笑った。酒好きの人間の考えることは、皆、似たりよったりなのである。

 来た道を横切り、病院の玄関口に向かいながら私は考えた。

 (多くの酒飲みの患者がオレと同じことを考えて、あのコンビニで酒を買っているとなると、紙袋で隠しているとはいえ、オレがビールを持っていることは、見る人間が見ればすぐバレるんやないか。これは弱ったぞ。ナースステーションをうまく通過できるやろか) 

 玄関に入ると、通りすがりにリハビリの先生が声をかけてきた。

 「どう、調子は?」

 「まあまあです。アハハ…」

 私は曖昧に答えて通りすぎた。動悸が高まっている。

 エレベーターを降り、遠くから透かし見るナースステーションに幸い人影はない。急げ、急げ。
 
 私は動悸を抑えて、一目散とはいかないこの片松葉を恨めしく思いながら、ナースステーションの前をなんとか横切った。

 さあ、ここまではうまくいった。次はポットの中にビールを入れにいく番である。
 
 しかし、ポットと紙袋を持ってトイレに入る姿を目撃されたら、目敏い看護士だったら、即座に私が何をしようとしているのか見破るに違いない。ここは慎重にしなければならない。

 私は病室の入口から首を出し、廊下を見回した。大丈夫、誰もいない。ベッドに急ぎとって返してポットと紙袋を手にして、私はトイレに入った。

 さあ、鍵をかければ、ここは私だけの密室だ。栓を引き抜き、ビールがあまり泡立たないようポットを寝かせ気味にして、ゆっくりゆっくり流し入れる。2本目にかかる。ビールは余裕をもってポットに納まった。

 (これだと500ミリリットルと350ミリリットルの2缶分が、入るかもしれへんぞ)と不謹慎な考えが私の頭をよぎった。

 私は、空になったビール缶を、かさばらないように平べったくつぶして、再び紙袋に戻した。
 
 そして、ポットの蓋が完全に締まっているかどうかを再度確かめ、トイレの鍵をわずかに開け、廊下を透かし見て人影のないことを見定め、病室に戻ったのである。

 犯罪ではないが、病院の中でしてはいけない行為をしたという、一種の罪悪感がそうさせるのだろうか。夕食時に飲む久しぶりのビールは、うまくはあるが何ともほろ苦い。 

 (それは精神が健常な証拠やが、これぐらいのことにオタオタしていてはあかん。いつも妻に、あんたは気が弱いからもっとしっかりしてよと指摘されてるやないか。もっとワルにならなくっちゃあ) 

 そう嫁さんには申し訳のない言い訳を自らに聞かせるが、やっぱりビールは口にほろ苦い。それに久しぶりのビールである、酔いは早い。

 こうして、私はは、この日以降、3日にあげずこのコンビニに通ってビールを買うようになったのだが、そのうち、徐々に大胆に、無防備になって、遂にはコンビニでの現場を誰かに見られ、婦長さんのお小言を頂戴する羽目になった。
 
 まさに身から出た錆である。

 そのとき、私はビールに関するざれ歌を3首詠んだ。こうである。

  ステーションに 掲げられし メニュー見る 今日は焼きそば ビールを飲みたし

  車椅子 乗って隣の コンビニに 行って買いたし ビールに茶づけ 

  めしを食い ビールを飲んで 心地よし 急に主治医の 来るを驚く

 ああ、あの頃は確かにアルコールに飢えた野獣のような心もて、毎日の病院生活を送っていたように思う。

bi-ru


 今となっては懐かしくも恥ずかしい思い出である。

 こんな思い出を書いても、もう、大丈夫。アルコールを飲みたいとは思わないよ。




        


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こんばんわ。
並々ならぬご苦労で、まして両足骨折は辛いですね。
私は18歳のとき、単車で自爆、大腿骨、鎖骨、骨盤骨折でした。
やはり松葉杖をついて、近くの寿司やさんでビールを飲んだ事が。
(元気になってくると病院はとても退屈)
もちろんあまりお金がないので、あてはタコぶつだけだったのを覚えています。
いままでアル症以外で何度も入院してますが、内科でなかったので我儘にやってました。
それが今の結果です。

2013-02-16 22:42 from yamadagaga | Edit

こういう事ならまかせてください

お邪魔いたします。アル中の彦六です。
私、40過ぎに風疹を患いまして、一週間近く入院しました。その時の事です。
紅茶のストレートティ・1㍑のペットボトルにウイスキーを入れて、堂々と枕元に置いて、夜間見回りが終わった後に水割りで飲んでました。氷が無いのと飲み過ぎると発覚しますので、三杯くらいで止めときましたよ。
やっぱり、アル中だったんですね。

2013-02-17 01:53 from アル中の彦六

Re: タイトルなし

18歳で、ビールにたこぶつですか。
さすがやるなあ、yamadagagaさんは。

2013-02-17 05:49 from 浪花太郎

彦六さんへ
病院で隠れて飲むアルコールの味は、今、思い出しても格別でしたね。
まあ、こんなことが平気でいえたり、書けたりするのも、断酒が100日を
越えたからです。
たな安心は禁物、禁物。すぐに(ひょっとすると俺はもう大丈夫なのでは)
という思いが頭をもたげてきます。

2013-02-17 05:54 from 浪花太郎

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