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桜の下でのビールの思い出 - 最近のトピックスや弁当作り・断酒生活そのほかもろもろ日記

桜の下でのビールの思い出

■ そろそろ春ですね

 まだまだ寒い日が続いているが、春はすぐそこ。足音が聞こえてきた。

 職場の庭の梅の花も、もう早、桜の蕾に追い立てられるように、その彩りを失いかけている。

250222学校梅
(職場の梅)

 

■ 桜とビール

 桜では思い出すことが多い。10数年前に交通事故にあって、両足を骨折し、1年近くの入院生活、リハビリ生活を余儀なくされたときの桜とビールの思い出を書いておこう。


 私が入院していた病院の敷地内に7~8本の桜並木があり、それは私の病室から眼下に見えた。
 
 そろそろ蕾が膨らみかけたなあ。あのつぼみが、いの1番にはじけたぞ。ちらほら咲きも梅の花みたいでいいもんやなあ。ほう、5分咲きともなると、上から見ると、地面に桜絨毯を敷きつめたようやなあ、などと、窓越しに楽しんでいたのだが、桜が6分咲きになったとき、私は思いついた。

 (そうや、あの桜の木の下で花見をしながら昼食を食べよう)
 
 翌日、昼食が運ばれてくると、私はごはんとおかずをそれぞれラップに包み、タッパーに詰め込んだ。

 即席の花見弁当である。もちろんポットの中には、病院の正面にあるコンビニでこっそり買ったビール。それをもって桜の木の下のあの偏平な石積みの上に腰掛けて、花見をしながら食事をしようという訳である。
 
 この日から。私は、6分咲きの頃の、桜花の合間に見える目にしみるような青空や、立ち騒ぐ風に花びらが舞いはじめた7分咲きの桜花、雨に洗われ花の散るのを心配させた8分咲きの桜花、ピンク色に盛り上がり、青空の中に競り上がるようだった満開の桜花、そして地面に白一色に敷きつめられ、まるで白い妖精のように風に踊る桜花の絨毯の光景を、毎日、楽しんだのだった。

 そこはまさに、私1人のための花回廊だったのだ。

f5482.png

 満開となった桜花が熟れ落ち、風にあおられ、花吹雪となって地面に敷きつめられたその日の花見は、私1人ではなかった。

 ちょうど1週間前に、夫をガンで亡くし、葬儀を済ませて病院の誰彼にあいさつをしにきたOさんが一緒だったのである。
 
 Oさんの夫Eさんは、私の隣の病室にいた。65五歳。膀胱ガンだった。Eさんは知らないようだったが、夫が膀胱ガンでそう長い命ではないことをOさんは主治医から知らされていた。
 
 Eさんは、病魔に冒されて痩せこけてはいたが、往年の荒技を偲ばせるに十分なほどに、まだ精悍な何かを体の隅々に残していた。

 点滴の支柱を支えにしながら、その痩せこけた体躯を奮いたたせるように、毎日、喫煙コーナーにいくのだったが、その後ろにはいつもOさんがEさんを見守るように付き添っていた。 

 Eさんの死は突然だった。誰もが昨日はいつにもまして元気に、みんなと話し合っていたのに、どうしてあんなに急に容体が変わったのかと噂しあった。
 
 そうである。あれは命の残り火だったのだ。しかしそれが残り火であったことは、死の後になって始めてわかることである。死はこのように予告もなしに、ある日、突然にやってくるものなのだ。
 
 しかし、長い夫の看護の中で、Oさんには既に覚悟があった。Oさんは、夫の突然の死を静かに受入れ、そしてこうして、今日、私と一緒に桜花びらの舞い落ちる中で、花見をしているのである。
 
 この日、Oさんは静かな口調でEさんとの来歴を私に語った。
 
 姉さん女房で、歳が8歳も違うこと、Oさんが水商売をしていて知り合い、愛し合うようになったこと、Eさんは自分の腕1本で生きてきた渡り職人で、若い頃には極道の道にも入りかけたことがあり、危うくOさんも極妻になるところだったこと、ふるさとへの便りもしないまま2~3年の間、流浪生活を送り、実家ではあいつは死んだものと諦めようと言い交わしていた頃、EさんはOさんを連れてふるさとに帰ったこと、そしてそのときのひっくり返したような騒ぎとその顛末、2人の子どもを生んだあとの夫の放埒や子育ての苦労などなど。
 
 そんなこんなをOさんは淡々と語り、私はそれに笑い返したり、驚いたり、深く頷いたりしながら、2人のたどってきた人生を心にしみ入るように聞いた。聞きながら、私の目にはただただ風に舞う桜花びら。
 
 Oさんは最後にこんなことをいった。

 「あの人とは、死ぬの別れるのといがみあったり、殺したいほど憎んだりしたこともあったけど、こうして死んでしまうと、あの人との人生も悪くはなかったという気がするから不思議やね。あんたとこうしてこんな桜の舞う中で、あの人のことを話せて、本当に今日はいい供養になった。ありがとう」
 
 私はその言葉を聞きながら、なぜか胸が詰まった。

 膨れる思いを隠して、Oさんの紙コップにビールを注いだその手を返し、私のコップに最後のビールを注ぐと、その泡の中に舞い落ちてきた数枚の桜花びら。

 私はそれをビールともども一気に飲み干したのだった。
 
 私の、きっと人生の中で1度っきりだろう、こんな花見は、葉桜の季節を目の前にして、この日終わったのである。
 
 そのとき詠んだ3首。

逝く人の 思い出語れば ハラハラと 桜花散り 仰ぎて瞑目
 
風に揺れ 風に舞い散る 桜花 ふと見上げれば 目に染む青空
 
桜花 舞い落ちてきて ゆらゆらと ビールの泡に 立ち泳いでる

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