アルコール健康障害対策基本法案の話(続き)
アルコール健康障害対策基本法の制定に向けて、昨年(2012年)5月、アルコール関連問題基本法推進ネット(アル法ネット )が立ち上がったが、そのアル法ネットで事務局の中心になっているのが、ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)代表の今也知美さんである(→プロフィール)。
■ 講演会の記録から
この辺の消息について、今也和美さんの講演から引用しよう(→掲載ページ)。
最近の基本法の動きは、WHOの世界戦略が出た2010 年から、もう一回盛り返してきている。中心になっているのは三重の猪野亜朗先生である。ご存じのように、猪野先生は三重で連携医療のネットワークを広げてきた方で、アルコール依存症の人が依存症の症状が出てから、専門治療につながるまで7.8 年の時間がかかっていたのが、ネットワークができて、2.8 年まで早まったという実績をあげている。これを全国で広げられないだろうかと取り組んだが、個人の熱意でしか今はやりようがないという問題があった。もっとシステムとして動かさなければ、個人がいくら頑張っても限界がある。猪野先生から一緒に基本法をつくろうといわれたときは、私は正直言ってとまどった。そんなものできないだろうと思った。だが、基本法ができるできないに関わらず、この活動の過程で、今までとはちがうネットワークができ、それは大きな財産になると思った。やっても損は何もない、やってみようと思った。
私の経験の中で、モンスターと戦ったという思いを持っているのは、自動販売機のことである。ASKができた1983 年、自動販売機は全国に2 万台くらいあった。あるのが当然だった。未成年者飲酒禁止法があるのに、機械で酒を売っている。法律には未成年者であることを知って売ってはいけないと書いてあり、機械は知ることができないから売っていいという理屈だった。おかしいと思った。何とかしなければと思い署名運動をしたが、15,000 人くらいしか集まらなかった。いろいろなことをやったが全くとりあってもらえなかった。ある日、ASKの運営委員の弁護士が、自販機のほとんどが道からはみ出していると気付いた。千代田区でその調査をした。タバコ、アルコールの運動体と主婦連の3 方向が集まって、弁護士がマニュアルを作り、調査をしていった。すると7 割が道にはみ出していた。主婦連に事務局をおいて活動したところ、道路法違反で警察が動き、はみ出し自販機は撤廃された。代わりに薄型自販機が登場、民家の壁を取り去り内部にめり込ませるということも起き、自販機は減ったけれど完全撤廃までには至らなかった。
そんなとき、WHOのアルコール専門部会の会議が東京で開催された。1991 年のことで、厚生省が共催で、久里浜病院の河野院長が議長を務めた。河野先生は、日本の自販機撤廃のために海外の世論を使おうという作戦を立てていた。ASKも海外の委員に日本の状況を伝えるロビー活動をした。会議の最終日に、WHOの勧告が採決された。そこには「自販機の廃止」という一文があった。屋外に酒類自販機がある国は日本しかないので、これは日本に向けた勧告だった。
それから自販機撤廃へと流れが切り替わった。小売酒販組合が撤廃決議、ビール4社も自販機の斡旋を取りやめた。こうして、2000 年にはほとんどの酒類自販機が撤廃された。法律で決まったわけではないので、関西にはまだあると聞いている。関東ではもう見ない。
これは、不可能に見えてもやり出せば社会を動かせるという貴重な経験だった。とにかくやっていると突然風が吹いて奇跡が起きるということがある。だが、やっていなければ何も起きない。今回はWHOの世界戦略がすでにあるので、もしかしたら奇跡は起きるかもしれないと思った。
■ アル法制定に向けた動き
アル法案は、ASK、医学界、断酒会など各方面が連携して制定に向けて動き出し、参議院法制局の手によって案文が作られたのだが、結局、衆議院の解散という事態の中で上程されることなく、お流れになった。
しかし、超党派による議員連盟の後押しがあり、アルコール業界もこの法案については賛成しているのだから、議案として国会に上程されれば、全会一致で可決されるものと思っていると、どうやら、まだまだ紆余曲折があるらしい。
今成さんによると、昨年の新聞報道などは、今一歩のところで、衆議院が解散し先送りとなったが、次の国会では問題なく通過するようなニュアンスで書かれているが、実務を担当しているものからとすれば、今一歩のところというよりも、解散直前によくもまあ、あそこまでこぎつけたというのが素直な感想だという(→インタビュー記事)。
1つの法律案を、しかもこれからのわが国のアルコール健康障害対策にかかわる視座を定める基本法を制定しようというのである。まあ、いろいろあって当たり前ということか。
それに大切なことは、制定されたとしても、この法律が具体的な権利義務を定めるのではない、いわゆるプログラム法だということ(→参照)。制定されて後が大切なのだ。魂を入れるのは私たちみんなの責任である。
ともあれ、やきもきしながらも、法律の早期制定を願って国会の動向に注目しよう。
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